「古民家暮らし体験記」 -濱崎美恵

2021/10/05

何となく秋の匂いが感じられるようになった、よく晴れた10月の初めの土曜日、コロナの外出制限が少し緩やかになったこともあり、夫と2歳の娘と鹿児島から福岡県飯塚市にある「和楽(わら)」に一泊で出掛けることになった。

ここは夫の高校時代の同級生のナナちゃんが働いているカグヤという会社が手掛けていて、古民家を再生して日本の古き良き生活スタイルを体験できる、くらいの貧相な基礎知識を持って、2日前に突然連絡を取って宿泊できるようにしてもらったナナちゃんに感謝しながら車で到着したのは午後3時前だった。

古民家を再生して・・という私のイメージとは違い、黒を基調とした洗練された印象を受ける日本家屋の前に、ホントに旦那の同級生?と疑問を持つくらいお肌ツヤツヤの笑顔弾けるナナちゃんが出迎えてくれた。

裏にある駐車場に車を停め、荷物を持って車から出ると、ナナちゃんともう1人女性が出迎えてくれた。
ラジオ局のレポーターをされていて、一年ほど前に取材を通してナナちゃんと知り合ったとのこと。今夜は予定があって帰らないといけないけど、今度是非飲みましょうと言ってくれた。

玄関から中に入るとすぐに土間があり、中央にテーブルが置かれていた。さっきまで味噌作りのワークショップをやっていたらしく、大豆などの材料が目についた。もし良かったら、と味噌作りにもお誘い頂いていたのだが、2歳児をアンパンマンミュージアムに連れて行く時間を考えお断りしたのを少し後悔しつつも、どこか懐かしい空気を感じていた。

隅には炊事場があり、あまり見慣れない釜戸がひっそりと私たちの古民家体験を歓迎してくれているようだった。土間から一段上がったところに居間があり、中央には囲炉裏が収まっていた。黒い鉄瓶が据えられたそれは何かの象徴のように静かに、しかし威厳さえ感じられるようだった。

居間の更に奥には綺麗な畳が敷き詰められた和室があり、とりあえず荷物を下ろして興味深々に家の中を見てまわろうとしていたとき、「あ、社長だ!」とのナナちゃんの声。

入口から登場したのは、これまた私の「社長さん」のイメージからは程遠い、物腰柔らかで爽やかな、こちらがとてもリラックス出来る(勝手にリラックスしてました)ような方だった。

私が熊本の八代出身という話をすると、ここの畳は八代の井草を使っていることやお風呂は檜風呂だから是非後で楽しんで、など私たちのテンションを上げまくって、買い出しに行くからゆっくりしてて下さい、との言葉を残し颯爽とトヨタランドクルーザーで去って行った。申し訳ないなぁ、と思いつつお言葉に甘えることにした。

夫の、ランドクルーザー格好良いなあ、という的外れな感想に対し、そこじゃ無いでしょ、という突っ込みは飲み込み見送った。

私たち3人だけ残った家屋内でお風呂や土間、縁側などを一通り見て回り、和室の畳の上に寝転んでみた。木と畳の匂いが爽やかな秋の空気と混じり合い、体が沈み込むような感覚がある。娘もよく分からないけど楽しいらしく、夫と畳の上で戯れあっている。

少し時間があるので夫が娘をお風呂に入れる前に私が先に入らせてもらう。たっぷりお湯を張った檜風呂。少し熱めのお湯が日頃の子育ての疲れが溜まった身体に染み渡る。

高級旅館のお風呂とは違う、田舎に帰った時、母が夕食の準備をしてくれている間にお風呂に入るような安心感と乾いている自分の身体が回復していくような充実感を感じる。夫が娘を風呂に入れたあと、また暫く畳の上でゴロンとする。

しばらくの間ゆったりとした時間の中に身を任せていると食材を抱えたナナちゃんが戻ってきた。夫は早く一杯飲みたいらしく、ナナちゃんに買ってきてもらったにも関わらず、飲んじゃう?としきりに勧めている。私も飲むのは嫌いじゃない、というか大好きなので3人で缶ビールで乾杯し、乾杯をせがむ娘ともお茶で乾杯する。

ナナちゃんの案で、縁側に簡易的な椅子を用意し、七輪で炭火焼きをすることになった。

 

初めは銀杏。初めての経験で、銀杏が弾ける時のパンッという音に家族3人で驚きながらも、熱々の殻を剥いて塩を少々、絶品である。大袈裟でなく。

続いて、うなぎ、椎茸、長芋など食材の良さもあるのだろうが、この空間で頂くことで何倍も美味しく感じるのかな、と考えつつ横を見ると、既に3本目のビールを開けている夫がこれ以上無いくらいの満足げな顔で堪能している。

こういう暮らしは勿論良いんだけど、虫がね。とナナちゃん。確かに蚊取り線香が各所に置かれている。私も虫は苦手で普段なら部屋の中に入り込まないよう、網戸を開けたら1秒でも早く締めたいのだが、ここでは不思議とあまり気にならない。

そろそろ中に入ろうか、ということで囲炉裏のある居間へ移り、2次会を始める。真っ赤な炭を焚べて、鮎の炭火焼きだ。よくテレビで見る、串刺しの鮎を突き立てる、あれだ。ゆっくり焼けていく鮎を見ているだけだでつまみになる。

鮎はちょっと苦手なんだよな、とさっきまでブツブツ言っていた夫も一口かぶりついたあとは更にビールが進んでいるようだ。美味しいものは美味しい。

そのあとはみんなお酒も進み、それぞれの仕事の話、子育ての悩みや同級生の近況、お酒の席にありがちな社会情勢についてのプチ議論に至るまで話は尽きることなく夜は更けていった。

翌朝、少しひんやりした空気の中、深い眠りのあとの清々しさを感じながら目が覚めた。夫と娘はまだ夢の中だ。
ナナちゃんも起きてきて、
「よく眠れた?」
「うん、最高!」
(訳:はい、ここ数年で一番気持ちよく、ぐっすりっていうのはこのためにあるんだなっていうくらい良く眠れました。)

身支度をしている間にナナちゃんが朝ごはんを用意してくれた。何から何までありがとう。手づくりの味噌を使ったお味噌汁と玄米のおにぎりで、美味しいのはもちろんだが何故か涙が出そうになる。不思議だ。

食後にみんなで散歩に出かける。家のすぐ裏手には田んぼが広がっていて、青すぎる空の下でたわわに実った稲穂がきらきらと輝いている。近くに寄って手で触れてみる。娘も指でつんつんして、「これ、ごはんになるんだよ」と教えると不思議そうに見つめている。最後までゆったりとした癒しの時間を過ごす。

短い滞在時間だったが、ずっと考えていた。この癒される感覚や幸福感はなんだろう。ちょっと体験的に行ってみようから始まったはずなのに、なんと言えばいいか、言葉にするのが難しいこの感覚。ナナちゃんから、古民家再生も含めてカグヤという会社の目指すこと、方向性を表すような「暮らしフルネス」という言葉を聞いたので少し調べてみた。

見つけた。

暮らしフルネスの10か条なるものが紹介されていて、そのうちの8か条目

「風水土火の恩恵と浄化を楽しむこと」

自然の自浄作用という意味もあるかもしれないが、心と身体が浄化されるような感覚、これが私が感じていたものに一番近い気がする。

今回、本当に来て良かった。突然の訪問に親切に対応して下さった社長をはじめ皆様に感謝し、何度でも来たい、もっと深く関わりたいと思わせてくれたカグヤを応援します。

最後に、ナナちゃん、ありがとう。